はっきりさせておく 帰国子女と留学生の違い

長年書きたくて温めつづけたこのテーマ「帰国子女と留学生の違い」

この二つを混同している人は多いです。
1〜2年英語圏に留学して「帰国子女です」とSNS上で宣言している方や、YouTubeで「帰国子女にありがち 留学かぶれあるある」といったタイトルのビデオで帰国子女と留学生が混同されているという事態が散見されますので、これははっきりさせておこうと書くことに決めました。

始める前に、お伝えしておきたいことがあります。この記事は帰国子女と留学生/留学経験者どちらがより優れている、と言っているのではありません。帰国子女という言葉には定義があり、留学経験者とは似て非なるものである、ということを個人の経験を交えながらお伝えしようと思います。
そして、帰国子女にしろ留学生にしろ、どちらもそれぞれ素晴らしい経験をされてきていると思いますので、どちらが悪いとか良いとか、優劣つける意図は一切ございません。ご理解いただけましたら嬉しいです。

さて、身の上話になりますが私は中学〜高校を東南アジアで過ごしました。親の仕事の都合で強制的に引っ越さなければならず、現地のインターナショナルスクールに転校。英語ゼロスタートでほぼ毎日深夜2時まで宿題や勉強をこなし卒業した後、家族で日本に帰国。帰国子女枠を使って日本の大学に秋入学しました。

この経歴を元に、以下に留学生との違いと思われる点を述べていきたいと思います。

尚、この記事では帰国子女も留学生も10代くらいまでの時期を指しています。また、留学生は留学をしている人のことを指しますので、日本に帰国した後は留学経験者としています。


帰国子女の定義

帰国子女という単語にははっきりとした定義があり、まず定義を調べると、こうなっています。

帰国子女(きこくしじょ)とは「帰国した息子達・娘達」の総称。 保護者の国外転居に伴って国外に転居した後に自国に転居 (帰国)した子女。 (Wikipediaより)


海外渡航の理由

上記の定義の中に「保護者の国外転居」とありますが、親の都合で転居がやむを得ないのが帰国子女です。家族で引っ越します。
一番多いのは親の転勤。家庭によっては単身赴任を選び、転勤を命じられた片親だけが引っ越し、家族は日本に残る、というケースもあるかと思います。家族全員で引っ越すことになったから一緒に来るんだよと言われたら、もう子としてはno choiceで引越しとなります。
私は親から引っ越しを告げられた時はちょうど中学に入学してしばらくした頃でした。部活も波に乗ってきてこれから仲間と一緒にもっと頑張ろうと思っていた矢先、父親に海外赴任の辞令。大好きな友達とも離れ離れになるし、本当に残念な思いをしたのを今でもよく覚えています。インターナショナルスクールに入ることになると思うと言われ、英語も小学生の頃の英会話教室と中学で習う英語程度の知識しかなく、それまで海外旅行もしたことなかったので、とにかく不安と絶望が入り混じった気持ちでいっぱいでした。
しかも帰国子女は引っ越し先を選べません。私は東南アジアの中でも比較的治安も良く発展した都市で暮らすことになりましたが、私の友人にはスリランカに住んでいて、当時やっとマクドナルドができたところだった、とか、ブラジルは日本から遠すぎるので、一時帰国するのに何日もかかって大変だった、とかそういう人たちがたくさんいます。
それでも、行き先は選べません。「日本からの直行便がある街の方が便利だよね」とか「なるべくアジア人が少ないところで英語を勉強したい」とかそう言う選り好みは一切できません。地球上どこであれ親が辞令を受けた赴任先へ、ついてこいと言われたら引っ越さないといけないのです。

留学生は
・自分の意志で留学に行くことを決意する
・どこで勉強するか、行き先を自分もしくは家族で選んで決めることができる
この2点が決定的に帰国子女とは違います。(中には親に強制的に留学させられるという方もいるようですが)

留学に行くきっかけも人それぞれだと思います。私が今まで会った人の中でも本当に色々な人がいて
・海外に興味や憧れがあり、留学した
・中高の早い段階から、海外でやりたいことがあった
・中高の早い段階から、異文化交流させたいという親の希望
・日本の中高で落ちこぼれてしまったので、一念発起して海外留学
こういった理由を聞きました。もちろんこれ以外にも理由は十人十色、たくさんあると思います。若い頃から自分の意志でやりたいことを見つけ、それを達成するためには海外で勉強したほうがいい、ということで海外留学を決意するのは並大抵の決意じゃないと思います。そして、ご家族がその意思を尊重し、サポートしてくれるのも本当に素晴らしいことです。

たとえば海外のバレエ団で活躍する日本人バレリーナのほとんどは、バレエコンクールで入賞すると海外のバレエ学校への留学の機会が与えられることがあり、留学先での本格的なバレエ学習がその後のプロバレリーナとしてのキャリアへ大きく寄与しますし、テニスの錦織圭選手はアメリカのIMGアカデミーというテニスの寄宿学校で学んだそうですが、留学するという一大決心がなければ錦織選手の今の活躍はなかったのではないでしょうか。


現地での暮らし

海外に家族で引っ越し、いざ生活を始めるとなると色々な壁にぶつかります。これは帰国子女であれ留学生であれ、同じことだと思います。
しかしここでも違いがあると私は思っていて、帰国子女は家族で引っ越し、一から家族で生活の基盤を築かなければなりません。これは、家族全員にとってかなりのストレスになります。

例えば父が会社勤務、母が主婦のケースで考えてみますが(もちろん昨今では共働きやお母さんが会社勤務も当然ありうると思います)、父親は、日本の本社から外国の支社のマネジメントを任されて転勤を命じられたとします。同じ会社とはいえ、責任は増えるし、従業員や部下は日本人じゃない場合がほとんど。新しい環境、新しい仕事でも成果を出さなければならず、大変な思いをします。成果を出して帰国しなければというプレッシャーと闘う日々。

母親の場合、あらゆるコミュニティーに一から入り直しです。個人的にこれが一番きついんじゃないかなと思っています。
ご近所さん、ママ友、PTAなど。もちろん言語の壁もついてきます。元々その国の言葉が得意なら問題ないですが、いきなり引っ越し決まってすぐ現地語をマスターするのも難しいですから、言語も勉強・練習しないといけません。そして、現地の日本人コミュニティーとのお付き合いもあります。「せっかく海外に来ているのだから、日本人同士の付き合いはしない!」という日本人の方をたまにお見かけしますが、子供が日本人学校に通っていたり、インターナショナルスクールでもPTAを国籍ごとに細分化したりするところもあるので、日本人同士のお付き合いやコミュニティーって海外にいたとしても家族で生活しているなら切っても切れぬ関係です。駐在員が多い国には当然日本人居住区みたいなものもあるので、そこで人脈を作っていくことも避けては通れません。
あと、日々の食料品の買い出しとか慣れるまで本当に大変です。言葉のわからない場所で、安全な食料を購入できるスーパーを見つけないといけません。日系スーパーや輸入品など高いものばかり買って生きていくと家計にも響きますから、値段もお得な食料が買える場所へ、夫と子供が会社と学校に行ってる間に、現地の言葉もままならないまま、乗り込まないといけないんですよ。(低価格だけど安全な店を知るには前述の日本人コミュニティーは便利です。)これこそまさに冒険ですよね。想像してみてください、世界中、きれいなスーパーばかりじゃないですよね。でも、家族が日々生活していくには食料と生活用品の買い出しは必要不可欠です。こんな大変さもあると思います。

そして当人の帰国子女ですが、日本人学校に入ることになるならまだしも、いきなり現地校やインターナショナルスクールに入ることになったら言語の壁にぶちあたります
帰国子女=英語じゃないんです。英語が通じる国ばかりじゃないですからね。自分で選んでもない国に行って、その言語の言葉で生活しないといけないんです。帰国子女の友人で、中国・ポルトガル・インドネシアなどなどで生活した人たちはインターナショナルスクールに行って英語を勉強しながら、学校の外の日常生活では現地の言葉を使わないといけないので現地の言葉もぺらぺらで、本当に関心しました。言語って、現地に住んでいれば自然に身につくものではないんです。海外生活を始めるときの年齢が高ければ高いほど、努力しないと言語は身につきません。それをno choiceでやらないといけないんです。

私は英語圏に住んでいたし、インターナショナルスクールに通いましたが最初は英語がわからなくて成績がめちゃくちゃ悪かったです。簡単な宿題をやるにも量が多すぎて深夜2時までかかりましたし、英語ができないからとクラスメイトに馬鹿にされたり冷ややかな目で見られることもありました。今思い返しても、リアルにあの時の苦い気持ちを思い出すことができます。また、詳しくは書きませんが人種差別も当然経験しました。

辛い時に思うこと。「こんなところ、別に自分で望んで来たわけじゃない」です。これで欝になったり登校拒否になったりする人もいると聞いたことがあります。でも、弱音なんて吐いてられないんです。ひとりで帰国しても日本に住む場所はないですから。 もう、生き抜くしかないんです、サバイバルです。帰国子女は海外生活が辛い時のモチベーション・心の拠り所がない、というのが辛いところだと思います。

留学生にストレスがない、と言っているわけではありません。留学生はホームステイ先や寮など、既に完成された場所に飛び込むことになるのがほとんどだと思いますが、一人で知らない場所に飛び込むのは簡単なことではありません。ホストファミリーと合わない、寮に馴染めなかったなど、色々な問題があると聞きました。そして何より、一人で異国で生活するほうが家族で引っ越すよりとよっぽど大変だ!と思う方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、日本での生活基盤を家族ぐるみで完全に断ち切って引っ越し、新しい場所で新しい生活を始めるというストレスとはまた別です。そして何より、留学は自分で決めたことだし、高い費用も払ってるし、絶対目的を達成する!という高い志を、望まずに海外へ引っ越さなければならなかった帰国子女よりは維持しやすいと思います。


大学受験

帰国子女と留学経験者の混同は、この大学受験システムから来ているのではないかと思っています。帰国子女は、現地の高校を卒業したら日本に帰国して日本の大学を受験するか、海外の大学にそのまま進学するかが主な進路なのですが、ここでは日本の大学受験のケースを述べていきます。(もっと若い頃に海外で過ごしてから小学校〜中学校で帰国する場合も、帰国子女入試を設けている小・中学校もあります)

元々、日本の大学受験における帰国子女入試・帰国子女枠というのは、帰国子女が自分の意志とは関係なしに海外生活を余儀なくされ、日本の教育を受けることができなかったため、救済措置として試験項目を変更し、入学生として受け入れるという目的で設立されています。

しかし昨今、この本来の目的は忘れ去られつつあり、ほとんどの日本の有名大学は「海外に◯年以上暮らし、現地の学校を卒業していること」を帰国子女入試の受験資格のスタート地点としています。この条件だと、帰国子女でも留学経験者でも受験資格があるわけです。

私は大学在学中からこの点にものすごい疑問を抱いており(子供を留学させるお金さえあれば、いい大学に比較的易しい入試を受けて入学させることができるので、帰国子女入試受験資格の乱用が起こるのではないか?というお節介すぎる疑問) 当時入試担当の教授に突撃して質問しに行ったことがあります。

答えは「確かに帰国子女入試の設立の背景は理解の通りだが、昨今大学は帰国子女の救済よりもグローバル人材の確保の方が興味があるので、帰国子女でも留学経験者でも海外経験がある人に受験資格を与えている」とのことでした。これは教授との日常会話で聞いた話ですし、オフィシャルでもなければ大学によって理由は異なるかもしれないということは留意してください。ただ、あながち間違っていないんじゃないかな、と思います。

この帰国子女入試において、帰国子女と留学経験者の区別がされないので、混同されてしまうのではないかと思っています。実際、私は大学受験のために帰国子女コースがある予備校(代◯ミ、河◯塾、駿◯)に高校卒業後の数ヶ月通っていましたが、クラスメイトの中には留学経験者も何人かおり、ほぼ何の問題もなく帰国子女入試を受験していました(ごく一部の大学は、留学経験者は帰国子女入試の受験不可という条件を設けていたため受験できなかった大学もあったようです)

東日本大震災以来、放射線から逃げるために某東南アジアの首都へ留学を進めるエージェントが増えていて、そこのウェブサイトには堂々と「留学させれば帰国子女入試で、日本の良い大学に有利な条件で入学させることができる」と謳っているのを見たことがあります。それを見ると本当に、違和感を感じざるを得ません。帰国子女は、帰国子女入試で楽に大学受験をするために海外に行っているのではないのです。親に仕方なくついて行って、現地の生活を一から始めて、日本の教育を受ける機会がなかったから、帰国子女入試という救済措置が与えられているのです。それなのに、自分の意思で進んで海外で勉強することを決めた人たちが、自分たち帰国子女と同じ条件で入試受けれるのはどうなの?と正直思ってしまいます。しかも一般受験の人たちから見たら帰国子女入試ってめちゃくちゃずるいですよね?そのずるい入試を受けられる人の範囲が広げられてるんですよね。しかし前述の通り、昨今は大学側も帰国子女と留学経験者の棲み分けを行っていないところがほとんどのようなので、違和感ありまくりですが、声を大にして反論することはできないのが現状です。


帰国後の生活

帰国してまた新しい生活を一から始めるというこのストレスを、また家族全員で味わうことになります。父は日本のオフィスで新しい役職。母はご無沙汰しているご近所さんたちと関係修復。帰国子女は新しい学校。持ち前の適応力でここでもサバイバルしていくわけです。

晴れて日本の大学に入学すると、今度は逆カルチャーショックが待っています。大学には、厳しい大学受験を乗り越えた猛者たちが今までの鬱憤を解き放つかのように髪を染め、ピアスをあけ、お酒を飲み始めるわけですが、そんなイケイケな環境に全く馴染めず戸惑いました。というのも、髪色とか服装とか自由なところにいたし、お酒も18歳からOKの法律の国だったし…あの受験戦争の抑圧か脱却した大学の独特な雰囲気には圧倒されました。

そして、幼少期~思春期を日本で過ごしていないと、地元の友達がいないという事実に気づかされました。日本の大学に入学して20歳になると、みんな成人式というビッグイベントのために帰省し、旧友とめちゃくちゃ盛り上がるらしいのですが、私はまず成人式がそこまでビッグイベントだということを知りませんでした。みんなすごい気合を入れてドレスアップするものだということも全く知らず…私は数人だけ地元に友達がいたのでせっかくの機会だしと思って行ったら、またあの抑圧から解き放たれたイケイケ空間に終始戸惑いっぱなしで、行ったことを後悔しました(笑)でも、きっと地元に友達がたくさんいたら、久しぶりに昔の仲間と集合して盛り上がって、とても楽しいんでしょうね。地元に友達がいてうらやましいな~と心底思いました。

そし大学での日々で地味に傷ついたのが、「帰国子女=アメリカ・カナダ・イギリスとか先進国から来た人だと思ってた。東南アジア?え?ジャングルでしょ?ww」という、軽いディスりでした。外国って白人が住んでる国だけじゃないし、東南アジアの首都とかあなたの地元の1,000倍は都会だよ?と言い返したい気持ちをぐっとこらえていました。これは、留学に行く人が行き先に選ぶ国が欧米の先進国が多い、ということから生まれる偏見なのではないかな、と思います。前述の通り、帰国子女は行き先選べませんので。最近は東南アジアも旅行先としては知名度だいぶ上がってきましたが、やはりまだまだ憧れの的なのは欧米の先進国なんだなーと思いましたね。

ちなみに、私の帰国子女の友人たちは、世間でよく言われる「外国かぶれ」を感じない、見た目も話し方も態度も違和感ない人たちの方が圧倒的に多いです。そのうちの多くは日本でバリバリ大活躍していますし、外国と比較して日本のスタイルを一々ディスるような発言をしているのをあまり見たことがないです。外国と日本のそれぞれの良さ・悪さを総合的に比較し判断するバランス感覚の優れた人が多い印象です。


まとめ

繰り返しますが、帰国子女・留学生/留学経験者に甲乙つけているわけではありません。もちろん、留学経験者からしたら「努力せずに家族みんなで外国に引っ越せて、親の会社の支援を受けながら生活できるほうがなまぬるい」と思われると思います。だとしたらなおさら、帰国子女と留学生/留学経験者は混同しない方が良い。

とても長くなっていまいましたが、もし最後まで読んでくださった方がいたら、ありがとうございます。

ちなみに、海外経験がある人=帰国子女というざっくりとしたイメージで、帰国子女という言葉を使っている人も多くいます。そもそも帰国子女の定義を知らない方にとっては悪気もなく一括りにすることもあると思いますし、帰国子女でも留学経験者でもどちでもええわ似たようなもんやろ!と思われる方もいらっしゃることも、重々理解しております。

ここまで読んでくださりありがとうございました!